流通価格の分析
米の流通経路は多岐に渡るが、主要な流れとしては農家からJAに渡り、その後、流通業者を経て消費者に渡る。
JAが農家へ支払うのが概算金で、これが流通に流れる米価の目安となる。これに対して実際に消費者が購入する金額が販売価格である。過年度の金額まで正確に調べたわけではないが、大まかに調べた範囲では以下のようになっている。なお、概算金は宮城県のひとめぼれの金額を示している。
マークアップ率というのは仕入価格に対して、どの程度の利益を上乗せして販売するかを表現したものである。米の流通には複数の事業者が関与するが、ここでは流通全体を一つの事業体と仮定して概算金と販売価格からマークアップ率、販売価格と概算金から粗利益を計算した。
誤解がないように補足すると、現実にはここで示した粗利益が全て利益ではなく、流通過程で発生する送料や保管料、包材や人件費などの経費を含んでいる。
マークアップ率の推移からみた販売価格
2021年から23年までのマークアップ率は緩やかに上昇しながらも100～110%で推移している。これが2024年になると年度当初は161%で、最終的には188%と大幅に増加している。
2024年に米価が上昇した原因として需要と供給の関係、流通経路、政策的な問題など、様々な要因が挙げられているが、ここではその議論は省略する。
流通経路だけに着目した場合、2024年度はマークアップ率が大幅に上昇しているので、これは流通経路のどこかでそれだけの金額が上乗せされていることを意味している。
これは資材や人件費などの高騰もあるだろうが、2024年度は今まで聞いたことがない事業者が米の流通に参入したという事例や、流通業者の一部で利益率が急上昇したというニュースを耳にしている。
これらを勘案すると、様々なコストが増加しただけでなく「2023年度以前と比べて、流通経路のどこかで利益を確保するケースが増えた」と考えてよいだろう。
2025年の米価はどうなるか
2025年度の概算金は2024年度以前と比べて大幅に増加している。
マークアップ率からみた米価
流通経路の中で発生する金額はマークアップ率で表すことができるが、この値が従来と比べて極端に小さな値になるとは考えにくい。
最低でも2023年度のマークアップ率以上の値が発生すると仮定して概算金から販売価格を算出すると、5kgあたり4900～6733円となる。
粗利益からみた米価
流通経路の中で発生する金額を仕入額に対する比率ではなく、金額ベースで計算することもできる。
流通過程において2023年、または2024年の実績から算出したのと同等の金額を2025年の概算金に加算すると、5kgあたり3433～5397円となる。
2025年の米価
2025年度も新たに米の流通に参入した事業者の話を聞く。新たに参入するということは「2023年度以前のマークアップ率では採算が取れないが、今のマークアプリ率なら採算がとれる」という計算が働いたということなので、2025年度の販売価格もそれに基づいた販売価格（5kg5000～6000円台）が設定されるだろう。
5kgで5000円台となると一時的には受け入れられるかもしれないが、一年を通じて市場がこの価格を受け入れるのは難しいだろう。この先の動きとしては「国産米離れ・外国産米の需要増加」等が重なることで需要が減少し、在庫リスクの懸念から値崩れすることが考えられる。
ただし、流通過程において一定の金額を確保しなければならないので、5kg4500～5000円あたりが現実的な価格ではないだろうか。
これ以下の価格になると流通を構成する事業者に与える影響が多く、規模の小さい流通経路は崩壊しかねない。
米価を論じる際の違和感
米農家と消費者は意識する指標が違う
米価が高止まりしている状態を報道する際に、農家側の意見として「今までが安すぎた。従来の金額では米作りができない。」という声がある。また、これを受けて消費者も「米は高すぎる」という声の他に「農家のためには高額になるのは止む無し」という声もある。
しかし、ここで気を付けて欲しいのは、消費者が意識するのは販売価格で、農家の収入に繋がるのは概算金である。この違いがあるにもかかわらず、販売価格を基準に農家と消費者の声を同列に扱っている報道が多いが、ここは気をつけなくてはならない。
今後への期待と不安
「概算金を高く、販売価格は安く」ということを実現するには、マークアップ率を低減できる流通経路を構築することである。現在のように業界を取り巻く環境が揺り動かされる際には新しいイノベーションが生まれやすいので、流通経路に関する新たな動きを期待したい。
米価の高騰路受けて、「縁故米の流通が増えている」といわれている。
縁故米というと親せきや知人に提供するものを指すことが多いが、商業的色合いが強くなった「縁故米的な流通」が農家、消費者共に納得できる価格を形成しやすいだろう。
ただし、米の流通は古くから存在して様々な事業者が絡んでいる業態なので、新たな流通を作り出すのは一筋縄ではいかないだろう。
★★ 注意 ★★
60kgの玄米を精米すると若干目減りする。このため、60kgの玄米を12等分したところで5kgの白米にはならず、5kgの白米を12倍したものが60kgの玄米ではない。ただし、本稿では計算を簡略化するため、0kgの玄米を12で除した値を5kg換算と表現している。
