行政手続きの電子申請状況からみたデジタル化のポイント

電子申請への取り組み実績

 法人設立から1年が過ぎた。法人設立時の定款申請から初年度の申告まで電子化できる申請は全て電子申請で対応してきた。結果として窓口で行ったのは公証役場で定款認証の費用支払いと、法務局で印鑑証明用のカード作成・電子証明書の作成という未だに電子化されていない手続きだけである。

申請用総合ソフト(法務省)

 定款認証と登記申請で使用した。定款への電子署名の方法はやや苦労したが、手続き操作が分かりやすく、処理状況も確認できるので分かりやすいツールといえる。
定款の確認で移動する時間も費用も省略できたので、活用価値が高いシステムだった。

法人設立ワンストップサービス

 「法人設立に関する手続きが一か所で行える」ということだったので活用したが、これが最も使い勝手の悪いサービスだった。
 電子申告開始届や都道府県・市町村への法人設立届も一つの窓口でできるという点は大きなメリットにも思えるが、実態としてはそれぞれの届け出用紙に書き込む内容を画面で入力するだけである。例えば、法人名や本社住所などは1回入力すれば済みそうだが、申請する届け出毎に同じ事項を入力しなければならない。また、「入力が完了した一部の届け出だけを提出する」こともできない。私の場合は社会保険関係の届け出作成で苦労したが、「社会保険の届はいったん保留し、簡単に作成できた電子申告の届け出だけを国税庁に提出する」ということはできなかった。

 このサービスに関してはサイト上にコールセンターの案内もあるが、これもワンストップの窓口ではない。サイト上に記載されていたのはマイナンバーに関する問い合わせ先であって「マイナンバーカードでログインできない」のであればこの窓口で対応してくれるが、入力内容に関しては社会保険に関することなら年金事務所に問い合わるというように自分で「何に困っているのか」を切り分けなければならない。
 また、申請したものの処理状況もよく分からない。全ての処理が終われば完了通知が来るようだが、私の場合はある機関が「届出は受理したが電子申請に関しては完了手続きをしなかった(?)」ために全ての処理について完了通知が届いたのは2か月後だった。

 法人設立のワンストップ窓口といいながら、支援体制も運用体制も整っておらず、手書きするのと同じ事項をパソコンから入力できるだけである。届け出作成の作業負担は変わらないものの申請者が考慮すべき事項は増えているので、メリットが極めて少ない。「インターネットから入力さえできれば効率化につながる」と勘違いしているシステムの典型と言える。

e-GOV(社会保険)・eLTAX(市町村)

 「手書き書類に記載することをパソコンで入力できるだけ」ではあるが、前述のワンストップ窓口のように「手書きより面倒」ということはない。移動する時間も費用も省略できたので、活用価値があるシステムと言える。

確定申告 (法人)・e-tax(法人)

 個人事業でも既に活用済みで、便利なことには変わりがないが、以前ほどのメリットは感じない。
 最近はスマホでもパソコンでもe-taxが利用可能になったものの、提供されるシステムもダウンロード版・Web版・SP版のように種類が増えている。これらが全てが同じことで出来る訳でもない。手段が増えたことでマニュアルの記載事項も増え、「どのシステムを利用するのが良いか」という考慮も増えてきたことが面倒くささ、不便さに繋がっている。

行政手続きの現状から見た電子化のポイント

電子申請のメリットを考える

 電子申請によって「役所に行かなくても申請できる」ということは一つのメリットと言えるが、移動時間以上に操作方法を覚える時間を要したり、交通費を支払う以上にコストを要したのではメリットは相殺される。残念ながら、ワンストップサービスはその失敗の典型例で、e-taxもそれと同じ道を歩むことが懸念される。
 また、電子申請を支援する体制も整っていないと、利用者にとってはレベルダウンとしか見えない。コールセンターの窓口が一般化されていないことは前述したが、それ以外にも社会保険の申請に関しては新規の事務所開設届に不備(考慮漏れ)があり、これに対応するために申請する側が事務センターと年金事務所の両方に連絡しながら処理を進め必要があったりと、窓口申請以上に手間を要した。

 昨今の電子化の取り組み例を見ると「電子化」が目的になり、「効率化」に対する配慮が欠落している事例が多い。電子化する機関の取組目標を見ても「電子化率」を掲げることはあっても、「作業時間の短縮」「問い合わせ件数の削減」等を掲げていることを目にする機会は少ない。電子化すれば効率化につながると捉えているのかもしれないが、既に電子化したことでレベルダウンしている手続きもあるので、申請する側・申請を受理する側の業務フローや操作内容等を分析した上で「効率化に繋がっていること」を確認するべきである。

手作業は必要か 

 創業から申告に至る電子申請を体験して「移動時間が短縮できて効率的」というケースが多いが、中には「交通費をかけてでも窓口に並んで申請したほうが遥かに効率的」というケースもあった。特に社会保険に関しては電子申請ではコールセンター・事務センター・年金事務所に連絡して数日を要した手続きが、年金事務所の窓口に持参したら数分で終了したという手続きもある。全てを電子化しようとして複雑化するよりも、窓口対応も併用することでサービス全体の効率化につながるという考え方も必要だろう。