なぜ、DXは分かりにくいのか?
「世の中はDX、DXと騒いでいるが、何をすればよいのでしょう?」という質問を受けることが多いが、まさにその通りでDXは分かりにくい。
分かりにくいというよりも正確な定義が存在しないバズワードと表現したほうが正確だろう。
「何となく格好いいし、DXというだけで専門家っぽく聞こえる言葉」と解釈するのが最も適切ではないかと感じている。
諸説勘案すると、DXはこんなイメージ
経済産業省で作成したレポートの中にDXを定義したものがある。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること
DX推進指標とそのガイダンス(経済産業省)
他にもいろいろと解釈はあるようだが、あちこちで提唱されているDXの定義を総括すると以下のようなキーワードが良く登場する。
- 【技術】デジタル技術の活用
- 【ビジネスモデル】ビジネスモデルの変革
- 【組織・人材】企業文化や組織の変革、人材の育成・確保
- 【成果】部門だけではなく全社最適化、組織全体での優位性確保
なぜわかりにくなったのか?・・・なんでもかんでもDX
DXの何たるかを分かりにくくしているのは言葉の定義だけではない。
DX関連の記事やセミナーを見ると「DX推進の云々」「DXによる云々」というものをよく目にするが、その中身を見ると単なるソフトウェアの紹介でしかないことが多い。
経済産業省のDXレポート2を見ると、DXは以下のような構造になっていると示している。
紙媒体を電子媒体に置き換えただけのような取り組みはデジタイゼーション、個別業務・個別プロセスのデジタル化であればデジタライゼーションで、デジタルトランスフォーメーションとは別なものという位置づけになっている。
しかし、世の中では紙媒体を電子化しただけでもDX、各種センサーを導入しただけのIoTにもならない事例もDX、パッケージソフトを導入しただけでもDXと紹介されることがある。
「全体最適化・業務プロセスの改革を含むのがDX」と説明しておきながら、数年前ならIT利活用と言われていたことがDXという言葉に置き換わっている。このように矛盾した説明をする事業者やメディが多いので、まじめに考える人ほどDXは分かりにくくなっている。
なぜわかりにくなったのか?・・・どこかで聞いたことの繰り返し
DXでは業務の変革や経営者の参画が重要であると言っているが、これは10数年前から「IT経営応援隊」や「中小企業IT化推進計画」「攻めのIT活用」等、数年毎に展開されてきたIT関連施策の中でも言われていたことだ。更には「全社最適化」「IT人材の育成」「IT投資の評価」も何年も前から聞いたことがあるという人は多いだろう。
DXという目新しい単語を掲げてはいるものの、よくよく聞いてみると「何年も前にどこかで聞いたキーワード」が満載である。
「DXは今までのIT活用とは違う」と言いながら従来のIT活用と同じ説明を繰り返されるで、「では今までとは何が違うのか」という疑問につながるところである。
DXは単なるバズワードか?
DXとは特に目新しいことではなく、その定義や位置づけも曖昧なので単なるバスワードに過ぎないという意見もある。実態としてDXという単語がそのような使われ方をする場面もあるので、そういう解釈もあるだろう。
では、「DXには意味がない、中身がない」かと言うとそうではない。
DXはTodoを示すものではなく、概念を示すもの
DXには10数年前から言われていたことが統合されているが、昔から言われているから誤りではなく、IT活用において経営者の参画やビジネスの視点を持つこと、IT活用に関わる人材の重要性など重要な事項は今も10年前も変わらない部分は多い。
このような重要事項に、ビジネスモデルの視点や企業文化や組織内の仕組みづくりなどの概念が追加され、日常的なIT活用から経営の変革までをも包含したのがDXという考え方と理解している。
これまでのIT経営やIT利活用においては具体的に何をすればよいかを示すことが多く、「これができたらIT活用」的な事例紹介が多くみられた。これに対してDXは「何をするとよいか」というTodoから、デジタル活用に伴う思考方法までを示した概念である。
「これを達成したらDX」というようにTodoを示した「狭義のDX」もあれば、デジタル技術を活かした経営改革に取り組む際の考え方まで示した「広義のDX」もあり、これらが全てDXという一つの単語で表現されている点がDXを分かりにくくしている原因ともいえる。
DXの考え方を活かすには?
DXに関連して「トランスフォーメーションに対応するためのパターン・ランゲージ」のように考え方を示すもの、デジタル活用や組織作りなどの取り組みを少し上の視点から紹介した「デジタルガバナンスコード実践の手引き」、「DX推進指標」のように具体的な指標を示すものまで幅広い情報が出始めている。
これらはDXという概念を構成するものの一つではあるが、これらを全て取り込まなければならないと考えるのではなく、自社に欠けている部分を補うための参考文書と捉えるとよいだろう。