「困っていること」から始めると業務改革は難しい

 DXに限らず、IT活用に取り組む際は「仕事上、困っていることは何でしょうか」をヒアリングすることから始めるケースが多い。確かに「困っている」と感じていることを排除できれば「効果があった」と感じられるし、困りごとがなくなることで「業務改善をした」ような気になる。確かに「困っていること」を改善することが業務改善に繋がることもあるが、そうではないことも多い。場合によってはその取り組みが悪い方に作用することもある。

 「困っていることがあるか」という問いをすると、それに答える側は常日頃「これは正しい」と感じていることを前提に、それを阻害している事象を「困っていること」と表現する。ただし、「これは正しい」と思いこんでいることに誤りがあったり、「正しい」と思っていることこそ改善すべき事項ということもある。
 例えば、社員がタイムカードの打刻状況を毎日チェックして打刻漏れや遅刻の申請漏れが中をチェックしている担当者であれば、「毎日目視でチェックすること」が困ったことで、「電子的にチェックする」が改善すべき事項といえる。しかし、「正門前に顔認証システムを置くことで自動的に出退勤を記録する」「タイムカードの確認をしている作業・担当者を不要にする」ことが本来取り組むべき解決策ということもある。

 「困っていること」を問う場合は「これは正しい」または「これは変えられない」という前提事項が確定していなければならない。日常的に行っている作業の時間短縮や経費削減のような事項であれば社内の認識に大きなブレはないので、「困っていることは何か」という問いから始めたとしてもその改善は成功しやすい。ただし、複数部署にまたがる業務の改善や、会社全体を事業構造を見直すといったケースでは社内の認識が一致していないことの方が多い。このようなズレを補正しないままに業務改善を進めると、特定部門内では効率化が図れても会社全体の効率が上がってなかったり、経営層から見て業務改善が進んだように見えても社内に不協和音が残ったりする。大掛かりな業務改善に取り組む場合には社内の認識、方向性の統一から着手することが大切である。