元日の新聞紙面から見た2023年

2023年1月1日発行の主要全国紙「産経新聞・読売新聞・朝日新聞・毎日新聞」を読み比べて、そのトップ記事と主要なポイントをまとめてみた。
今年は各社の論調に共通する部分があり、かつ、それが上手く経済の話にも関連付けされているので今年は「日本経済新聞」の情報も加筆している。

産経新聞

民主主義守る戦い

アメリカ議会襲撃から話が始まっているが、経済格差の拡大を背景にしたポピュラリズムが台頭し、民主主義の危機を迎えている。実際に民主主義の国は減少傾向にある反面、独立体制の国は増えている。コロナ対策・ウクライナ侵攻・価格高騰・気候変動などもその背景にあるとしている。
また、「政策に民意が反映されていない」という回答が多いことにも言及し、インターネットの活用が民意を図る仕組みになりえるとしている。

国民を守る日本へ

東アジアの不安定な状況への対策として防衛政策が必要だが、日本では見当違いの議論が横行し、国民を守れる国になるには乗り越えるべき壁が存在することを指摘している。

読売新聞

日韓レーダーを接続・技能実習派遣期間調査

日韓で即時共有する方向で検討していることと、技能実習に関しては各国の送り出し機関を現地調査することを一面に記載している。

社説「平和な世界構築の先頭に」

民主主義勢力が世界的には少数派になりつつあること、新しい秩序作りの出発点に立っていることを指摘している。
国際世論の形成が必要になるが、我が国の立ち位置としては対話のパイプ役になりえるとしている。その反面、充実した国力や公正な行動をするためには国内が不安定では成立しないと締めている。

毎日新聞

日台に軍事連絡ルート

自衛隊と台湾軍との連絡体制を説明し、「平和国家はどこへ向かうのか」で締めている。この記事は3面にも続いているが、ここでは中国が反発するリスクから日本政府が表立って動けないことや、国民を守るのは日本政府の責任という発言も掲載している。

社説「危機下の民主主義」

民主主義の土台を侵食する深刻な問題があるとし、「政治指導者が強権的手法をとる内なる専制」「欧州などでのポピュリストの台頭」「危機を口実にした議会軽視」の3つを指摘し、最後に「民主主義を再生することができるのか」としている。

朝日新聞

誰もが孤独の時代、人間性失わないで

ノーベル賞作家、アレクシエービッチさんのインタビューを中心に構成している。
ウクライナの問題を扱いながら最後は「絶望の淵になっている人のよりどころは日常そのもの」で締めている。

社説「戦争を止める英知今こそ」

戦争犯罪の捜査が遅れていることや、安保理は大国のエゴがぶつかり合う舞台になっていることから国連が役に立っていないことを指摘している。
既に起きている戦争を一刻も早く止めることと、戦争を未然に防ぐ手立ても構想する必要性を述べている。

日本経済新聞

グローバル化とまらない

グローバル化による問題を指摘し、新たなグローバル化で問われるのは「効率」と「フェアネス」であるとしている。大国間の分断やブロック経済が二度の大戦を招いたことから、フェアネスを礎に分断をつなぐ取り組みが不可欠であるとしている。

社説「分断を超える一歩を踏み出そう」

覇権国が台頭する新興国と衝突し戦争に繋がる事例が多いという「ツキディデスの罠」、大国の指導力不足が大恐慌と第二次世界大戦につながったという「キンドルバーガーの罠」を引き合いに出し、大国間の対立を緩和分断から協調へ向けるべきとしている。

総括

昨年の元日の朝刊を読み返してみると今年同様に「民主主義の危機」が述べられているが、今年はそれが一歩進んだ形で論述されている。また、全ての新聞が「民主主義の危機」に類することを述べている事も昨年との大きな違いである。
これは単にウクライナ侵攻や東アジアの軍事的脅威を指しているのではない。グローバリゼーション・分断・ポピュラリズム等はどの紙面にも共通するキーワードになっており、安保三文書や軍事費の問題以前に「国の仕組みとして民主主義が崩壊する予兆」が現れているいることを指している。
「民主主義の再生」という表現で我が国の民主主義が崩壊しつつあることを指摘している文面や、二度の世界大戦を迎えた世界状況と比較する記事も複数散見される。
このような状況を論じるのに最も遠い位置にあるそうな日本経済新聞が、今の状況を幅広く伝えているように感じられ、最も興味深い紙面構成であった。

昨年は「AI」「個人情報」「オシント」等のデジタル社会にかかる問題を指摘する等もあったが、これらの話も一面からは一切なくなっている。扱われやすい話題としては「賃金アップ」や「リスキリング」が挙げられる。