本来の目的を見失いつつある補助金制度
中小企業支援策の柱である補助金制度は、これまで革新的な商品開発や生産性向上を促す「挑戦の後押し」として機能してきた。しかし近年、「パートナーシップ構築宣言」「健康経営」など経済的効果とは直接関係の薄い加点項目が増えている。これらは政策的メッセージとしては理解できるが、制度全体の目的である“経済発展”という軸からはやや逸脱しつつある。
結果として、「革新的な取り組み」よりも、「形式的に加点条件を満たした計画」が採択されやすくなる傾向が見られる。これでは補助金の目的である生産性向上や技術革新の支援という趣旨が薄れてしまう。
経済政策と社会政策の混在がもたらす弊害
経済産業省系の補助金の推移をみると、以前は「革新的な試験研究を支援する」というものが中心だったが、次第に事業効果に直結するような「企業の付加価値を高める」ことを主眼に置くようになっている。予算も年々増額され、中小企業でも気軽に補助金活用に取り組めるようになってきたが、社会政策的な項目が加点として組み込まれることで、国の施策への誘導策の役割も担うようになっている。
これにより、革新性が高い取り組みや産業の発展に寄与する取り組みよりも、国の施策に準拠する凡庸な取り組みが採択されるという結果も生まれている。
社会福祉の補助事業であればそのような考えでも良いかもしれないが、経済系の補助金であれば本来の目的である「事業者の革新的な取り組みの後押しと、それを通じて産業の発展に寄与」に立ち戻るべきだろう。
制度に嘆くより「活かす」姿勢を
とはいえ、長らく続いており、蛇足ともいえる加点評価は増える傾向になるので、当面は施策誘導の色は残り続ける可能性が高い。そうなると制度を批判するより、申請する事業者側の姿勢が重要になる。
加点項目をノルマ的な要素として捉えるのではなく、「経営の質を高めるチャンス」として積極的に活かす視点が求められる。たとえば、今年度になって大幅に強化された賃金引き上げ要件に関しては新たな取り組みの中に従業員毎の売上向上に連動した賃金アップの仕組みをビジネスモデルとして取り込むことが考えられる。「健康経営」であれば従業員のエンゲージメントや企業ブランドの向上と業績アップが連動するような仕組みづくりが考えられるだろう。
このように加点評価の項目を形式的に対応するだけでなく、事業戦略、またはビジネスモデルの一部として組み込めば、補助金獲得を超えた持続的成長につながる。