少子化報道に見る過去を論理的に分析する必要性

 厚生労働省の発表によると2021年の合計特殊出生率が1.3と悪化傾向にあるとか。報道では「コロナの影響」もあるものの、「諸外国と比べて少子化対策が手薄」であることを指摘する声が大きい。
 毎年、この時期になると出生数や合計特殊出生率が好ましい状態でないことが報道され、「出生率が高い諸外国と比べて日本は対策が遅れている」という分析も毎年お決まりとなっている。今年に関しては「不妊治療への支援」「男性の育児休暇取得」「保育環境の整備」等が話題になることが多く、来年度以降の政策はここら辺が強化されるのだろう。
 役所としての予算獲得の論理としてはこれで良いのだろうが、少子化の原因分析の考え方としては物足りなさを感じる。

少子化対策は部分的に成功した事実をどう捉えるか

 長期的な視点で見ると合計特殊出生率は低下傾向にあることは間違いない。特に2005年には1.26まで低下していたが、ここら辺からは今に繋がるような少子化対策も強化され、2005年から2015年にかけては一貫して改善傾向にあった。少子化対策を強化した時期と一致しているので、少子化対策は成功していたといってよいだろう。

 当時の諸外国の状況を見ると先進国の多くが1.8から2.0に達してた。一時期低迷傾向合ったフランスも家族政策に力を入れたことで出生率が改善したようだが、これを参考にしたのが日本の家族政策である(諸外国では移民政策もプラス要因になっていたが、その話は割愛する)。現時点で諸外国と全く同じとはなっていないが、諸外国が出生率を改善したのと同等の対策を講じ、それが実を結んでいたという事実がある。
 過去には諸外国の成功例を参考にした少子化対策が成功していることを考慮すると、今の政策が諸外国に比べて見劣りしているという考え方は短絡的すぎる。ここ数年間は次のような問題が発生していることも考慮すべきだろう。

  • (仮説1)少子化対策が進んだことが、逆に出生率を低下させる要因になった
  • (仮説2)少子化対策の効果を打ち消すような問題が発生して、出生率が低下した

女性の社会進出が出生率を低下させたか?

 これまでの少子化対策の中では「女性の社会進出」も推奨されている。女性の社会進出は出生率を低下させることに繋がりそうな気もするが、近年の研究では「女性の社会進出が出生率の向上につながる」ことが示されている。これは世界各国のデータを分析したうえで内閣府の男女共同参画白書の他、様々な場面でこの話が強調されているが、これに関しては以前から異をとなる人も数多く存在している。これまでは「女性の社会進出=出生率の向上」が成り立つかどうかという議論であったが、この説の成立・不成立を左右する別な要因がある可能性もあるといえる。

2015年から少子化対策は強化された筈では?

 2015年はアベノミクス新三本の矢が発表された時期である。新三本の矢とは「(1)希望を生み出す強い経済(2)夢を紡ぐ子育て支援(3)安心につながる社会保障」の3項目で、この「夢を紡ぐ子育て支援」の数値目標が「合計特殊出生率1.8」であった。このため、2015年以降は少子化対策が強化されているが、なぜか合計特殊出生率は2015年を境に低下傾向にある。
 このような話をするとアベノミクスが問題のようにも捉えられるかもしれないが、それまで約10年にわたり上昇傾向にあったものが減少に転じたとなると、2015年前後を機に出生率を押し下げる要因があったと分析するのが自然だろう。

過去を客観的に分析する

 このような政策に関しては「成功・失敗」の二択しかなく、「途中までは成功した」「部分的に成功したこともある」という評価が下ることは少ない。これは過去の施策に失敗点があったとなると、先人を否定することに繋がりかねず、それに配慮した結果ともいえる。
 が、この合計特殊出生率を見ても分かる通り、「部分的に成功」「部分的に失敗」は普通に起こりえる事象である。失敗点があったから「その施策は失敗」「施策を考えた人の失点」と見なすのではなく、失敗点を見つけることは次の改善に繋がることと捉え、失敗の発見を肯定的にとらえることが必要である。